« 聾ということ | トップページ | 頭の体操 »

2013年1月 9日 (水)

私の耳

耳というのは不思議な器官である。朝目覚める瞬間から外界鳥獣の声、騒音が先ず耳に聞こえていたものだが、それが今はジーンと言う、体内の血の流れかとも受け取れる音が先ず聞こえて来る。静かだと言えば静かだが異様な静けさの中に何かが隠れていそうにもある。

咳をすると異様にやかましい。声を出すと急に騒がしく何もかもがしゃがしゃにかき乱してしまう。自分の声すらよくわからない。

もう慣れたが、4日の朝からこの状態が続いている。

昔私はボーイソプラノと言われ、いつも音楽会に引っ張り出された。

教室で練習している時も、廊下の窓越しによその生徒達が鈴なりに覗き見している光景を、歌いながらも目にしたものだった。

中学校に入っても、広島から教えに通っていらっしゃった著名な先生にも認めてもらって、度々クラス全員の前に引き出されて模範歌唱をさせられた。

翌年の冬風邪を引いた。声が出なくなった。

声が出始めたとき我ながら声の代わり様に驚いた。

人の声かと思うほどガラガラのしゃがれた声だった。

そしてそのまま元に戻ることは無かった。

その次の音楽の時間に広島からわざわざ通って来た先生がいつもの通り、私を前に引き出して歌わせようとした。

一声出した途端、あっ声変わりしたなっ!と言ったなり絶句した。

それっきりお呼びが無くなった。

この先生はその3月限りで退職されたのか、これ以後再度教えを受けることは無かった。

戦後も広島で活躍され高名を馳せられていたから、お名前を忘れたことは無いが、お目にかかることは生涯二度と無かった。

今まざまざと当時のことを思い出している。

今度は風邪でツンボになった。実に世の中が静かである。

老境にふさわしい世界とも言える。案外私にはこの方が好ましいのでは。

|

« 聾ということ | トップページ | 頭の体操 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/157907/56502239

この記事へのトラックバック一覧です: 私の耳:

« 聾ということ | トップページ | 頭の体操 »