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2012年3月 4日 (日)

青春に迂路はない

昨日と同じ春雨の朝、気温も7度とほぼ同じ。もう春はまぎれもない。

本日を以て2ヶ月に亘る故河北君の手記の連載を終わる。
彼が書き残したように、青春の迂路と見た軍隊生活が単なる迂路でなく、ひ弱な肉体や性格を矯め、
人生の生き方を教えてくれた反面教師と捉えた考え方に私も全く同調する。

私の場合は人殺しも泥棒も出来たのだから、人間の悪の限りを尽くしたと云っても良い。
明治維新の幾多の悲憤慷慨し、ある時はむざむざと腹を切り死んで行った若者達を想起して欲しい。死を賭すということが甘っちょろいものでないことが、私ならずとも理解出来るであろう。

私が過去に書いてweb上に搭載している駄文にも、河北君と同じ様な感慨を既に載せている。
ホームページ「語り継ぐ戦争の記憶と昭和の声」を参照してもらえば判る。
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河北君のシベリア送り脱出行(手記)(その53)

36、私の青春は人生の迂路だったろうか?

かくして転々とした私の運命も過去ってみれば一連の思い出となって、脳裏に刻み付いているものの、誠にあっけないものだった。状況の変化に応じて刹那刹那に苦しんだり、喜んだりした大陸の生活、そして若い青春を大陸に捧げた5年間の月日は私にとってなんだっただろうか。学生時代に描いていた青春の夢もロマンも放棄して、国家の為戦場に送られた私達であった。
楽しかるべき青春時代を無謀な戦争に費やして悔いは無いのか?私の自問に対しても、過ぎ去った過去はもう戻って来る筈は無かった。

回り道をしたなあ! と思った。ただ人生にマイナスだったと考えても、誰もが苦しんでいた当時としては致し方ない事情であり、私自身もそれほど深刻には受けとめていなかった。若かったからかも知れない。5年間のブランクを人生の貴重な足がかりとしておそまきながらこれからの人生を作って行こうと覚悟していた。

かっては北満の兵舎で初年兵として入隊した当時、消灯ラッパの音を聞きながら寝床の中で辛い一日を忘れようと、学生時代や東京の会社の思い出を無理に回想して寝付いたものだった。これから戦争の悪夢を忘れ未来への楽しい構想を描いて早く社会に復帰しなければならないのだ。

考えてみると大陸の生活、特に戦後の苦しかった生活は必ずしも無駄だった訳ではなかった。5年前に私達を北満に引率する為に初年兵を受け取りに来たある下士官が、内地を出発する時に希望を失ったような私達に、”お前達、くよくよするな! 満洲の広野に若い力をぶっつけることは、人生の取っていい経験になる筈だ” と言った言葉を今でも忘れていなかった。そして実際に、私の脾弱だった肉体と精神を鍛えてくれた軍隊生活、自活力と社会の表裏の仕組みを覚えさしてくれた戦後の運命は、私の人生に大いなるプラスとなった筈だ。

私は、私がソ連軍の捕虜になる前夜に取った一夜のアバンチュール、及びそれから展開された風変わりな生き様を思えば、何であんな事ができたのだろうかと日頃の性格から見て不思議に思う事もあった。私の冒険体験を聞いた数少ない友人達も又、真実を疑い、首を傾げる向きも多かった。

人生には一生のうち、どちらにするかとの去就を求められような場合が何回か有ろう。その時の決断と行動とによって、それからの人生が全く反対になってしまう場合も考えられる。そしてその場面に遭遇した時に、インスピレーション的に閃くものを天の声として受けとめる事が有ろう。一瞬の閃きは、その時に置かれている境遇の中で最も良いと思われる方向を、常識的な英知と面子によって正当化しようとする現れかも知れない。

実際にあの時は、天の声に従って死も辞さない気持ちだったと思っている。そんな決心をした私の純粋な気持ちを私自身尊いものとしてきた。幸いに、この判断が吉と出たから良かったものの、凶と出れば大陸の土となったと思えばぞっとする。

こんな貴重な体験を得た私の青春は、回り道どころか、むしろ悔いなき花の青春といって然るべきものかも知れない。


37、結び

戦争は悲劇である。戦後の辛酸をなめ、内地に引き揚げられた多くの人達、未だに尾を引いている中国戦争孤児の問題等を考えると、私などの苦しみは取るにたらないものかも知れない。それでも私なりに生き抜いて帰って来た。その貴重な体験と数々の思い出を記録してみた。

戦後の大陸で敗戦国民という逆境にあって、人とのふれ合いの様々な機微に接した事は今でも私の心の支えとなっている。
共に苦しまれた方達のご活躍を期待し、同時に面倒を見ていただいた小田原さん、森田さん、そして奥田さんご一家の末永く幸あれと祈るものである。(おわり)
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