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2011年10月21日 (金)

宣撫ということ

70年近く平和の時代が続いている今の日本では、先の大戦の話をしてもピンと来ない人が多いだろう。
まして私がブログで何度も書いている宣撫とか宣撫区域とかについて少し解説しておきたい。
もちろん宣撫には国家権力そのものを前面に出してする大掛かりのものもあるだろうが、私の言う宣撫は半ば必要に迫られて,自分の部隊が出来るだけ現に居住している地域で安穏に生活出来ることを目標に、対住民関係を築きたいとする努力にすぎない。

日本の支那大陸作戦は兵器弾薬こそ日本から持ち込んだものを使ったが、食糧の大部分は現地調達に頼った。
従って保存の効く米などは、主に配給されたが、作戦の進むにしたがい追送が間に合わず、更に彼我航空兵力の差から、受ける被害の大きさで輸送が前線まで届かず、勢い行く先々での徴発,略奪が自然現象となった。
私の部隊は独立自動車第31大隊という主として軍直轄の輸送部隊として機能した約二百輛編成の自動車ばかりの部隊であった。
自動車はご存知の通り小さな部品まで入れると千以上もある部品で構成され、絶えず故障,喪失に繋がって動かなくなった。
故にどの部隊でも修理や燃料部品供給のため材料廠という一個中隊を付属していた。

普段は部隊の中間或は最後尾に位置して,用件の生ずるを待つばかりであった。偶々当時私はこの隊の隊長に任命されていた。隊の主力は部隊本部の15キロ南方板塘という部落の南端に駐留していた。

部隊長から駐留が当分続く予定だから,駐留地の湘潭県花咢郷の区域一帯を宣撫しろと命令を受けた。
一地に常時居る訳だから付近の住民とは当然親しくなるし、親しくしなければならなかった。
親しくなればなるほど糧抹の取得は容易になった。
その反対給付として、池本兵長、河原衛生兵などを専任にして施療はじめ宣撫に当たらしめた。
池本兵長は東京消防庁に在籍していての応召兵だったから、救急医療などお手の物だった。
積極的に何キロも遠方まで薬嚢携行で施療に出かけたりした。

隊の糧抹仕入れの担任は犬養兵長と云った。もと日本の総理大臣で昭和7年五一五事件で反乱将校に殺害された犬養毅の孫であった。
この総理は中国建国の父孫文を助けた事でこの地でも有名であった。
その孫が現にいて折衝に当たっているとの噂はまたたくまに彼ら住民の間に広まったらしい。

村の長老が親しくしたいと黒瑪瑙の犬養の印鑑を彫って彼に差し出した。

住民は絶えず部隊に出入りし,情報を伝えてくれた。
駐留して間もなくの頃、食料を日本兵に略奪されたと数百米離れた家の住民が訴えて来た、すぐ押っ取り刀で出かけて,鶏などさげて3名の兵隊が道路を歩いて来るのに出会った。
誰何すると略奪した何が悪いとうそぶいている。急に腹立たしくなったので思わずビンタを張った。
兵たちもこちらの剣幕に驚いてたが,住民も驚いた。すぐ返せと命令して返さしたが、すなおに従ってくれたこの兵たちは今思うといい兵隊たちだった。

爾来住民たちは,敵情をよく伝えてくれ、湘江をくだる船舶小隊が対岸の敵に襲撃され船を失ったときも約4キロの道を連絡、案内してくれ撃退してその兵士らを救出したり、又別の時ツーチンサンという山麓に侵入して来た敵を伝えてくれて,討伐に出かけ、交戦はしなかったが、追っ払って住民から歓待を受けたりした。
このとき軍公路沿いの部落の住民たちがこんな奥深い地に避難している事を知った。女子供みな群れていて,寺小屋みたいな学校まであった。

昨日書いた花石県の県長がこちらに出向いて治めてくれと頼みに来たのに,驚いたり眉唾だなといぶかったりしたが、前記の事や”湖南戦記”に記載された事情など入り交じった,理由なき偶然ではなかったと70年も立って理解が出来る話ではある。

隊員は自動車に関する技術は勿論一般に亘る工作技術も必要であった。
私の隊には応召した兵員だから、民間にあって鋳鍛造、旋盤、電工などいろいろな職種を経験したものばかりが所属していた。
板金をやっていた金谷という兵は十数年の経験者で,後に桂林で一人でアルコール工場の蒸留塔を作り上げた。その手際のすばらしさには部隊全員が驚いた。
自動車のキャブレーターもアルコール用をつくり、付け替えたのも,鋳物工たちの仕事だった。
自動車の車輪をトロッコのそれと取り替え、鉄道を走らせてトロッコを牽引し、輸送滞貨なしの好成績をあげて、司令官の激賞を受けたのも彼らの功績であった。

昭和19年に始まった湘桂作戦という一作戦だけの戦争従事だったが、国の運命を双肩に荷う気概で終始した。
悔いなき戦いだったと思うだけに、恥知らずな戦いをした同僚のあることがつくづく情けない。

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