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2009年7月11日 (土)

初年兵回想をまた

雨は上がっている.気温23度と少し涼しい。
依然として霞に包まれて日射しはない。梅雨に変わりはない。
午後になって家内と近くのスーパーに買い出しに行く。

夕方になるまで降りもしないが、晴もしない。どんぐもりのまま日が暮れて行く。
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私の戦争/初年兵の追加
 ここでまた初年兵時代の生活について思い出したことを一二書いてみよう。

兵隊での生活は日常茶飯事にいたるまで、お仕着せの生活だった。だから公式の服装は当然予備を併せてすべて支給されたし、交換もしてくれた。が細かい下着とか、日常使う歯磨き歯ブラシの類から,チリ紙,ハンカチなどはどうだったか、とんと覚えがない。
月々の手当は5円内外だったから、金目のものは当然手が出ないし、外出もないのだから買う所もない。唯一酒保でうどん、そばなどの食物から、鉛筆、便箋の類は売っていたと思うから、おそらくそこで調達したのであろう。
寒い所だから、当然防寒衣料が支給され、下着から靴下、靴、手袋まで官給だった。
眼鏡は当然自分持ちだったが、壊れたときどうしたかこれ又覚えがない。ただ吊るが折れたときは,絲で耳に吊った覚えはある。

軍隊には下着に襦袢,股下というのがある。私の家庭での生活習慣にはないことなので、最初は戸惑った。股下の下端部分が10センチばかり割れていて、割れた両端の部分に15センチばかりの紐がついている。紐はもちろん結ぶためのものだから、誰に聞くともなく単純に結んでいた。
これが問題だった。非常呼集の際、整列して服装検査が始まり、めざとく検査官にその紐の結び方がひっかかった。手抜きをして動作を速くした即ちずるをしたと取られたわけである。
前に引き出されてひっぱたかれ、入隊早々印象を悪くしてしまった。ひもは足首を巻いてしっかり縛るためのものであった。そこに気づかない粗忽さ(常識外れ)が私の身上であった。

入隊1週間目風呂場で営内靴を盗まれた。凡そ公衆浴場には生まれてから一度も行ったことがない私は、履物の管理を自分がするという観念が初めからない。脱ぎ捨てて入ったから出て来てみたらない。ほかにも脱ぎ捨てられた営内靴は沢山あったから、それでいいものだと単純に思った訳。実際は市中の公衆浴場と同じく履物箱に整理すべきものであった。
だからなくなっても誰も取り合ってくれない。零下20度の戸外(といっても広い営庭のことだが)を裸足で走って帰営する羽目になった。営内靴がないといちいち軍靴を履いて(便所に行くにも、もちろん紐をしめて)出かけなければならない。
足を突っかけて出かけるのと早さがまるで違う。軍隊は拙速を尊ぶところである。当分の間苦労することになった。別の班にいた学校の同級生の述本君が見かねて、親戚のもの(一年上級)が隣の3中隊にいるから聞いてみてやろうと言うのでついて行く。その人は名前は知ってた、同郷の3、4年先輩の(河上さん後の岩国市長)だった。なんとか員数外の古いゴム製の少し形が違うものを貰って帰る。
私の初年兵の大半の時期はこのボロ靴のお世話になってしまった。こんどはどこで脱ぎ捨てても盗られる心配はなくなったのが、気の利かぬ私には丁度よかった。
ずぼらなようでも、何事も人より姿形の悪いもの,値段の安そうなものを身につける習慣はこの軍隊生活で育成された。そして生涯を貫いた私の哲学である。

これも入隊して間もない頃だった。時ならぬ時に初年兵集合がかかり、急遽営舎内の一室に集まった。 見ればテーブルの上に同じ兵隊が転がされ顔は布巾で被われていた。嗚咽の声がしたので、泣いてるようだった。週番士官の説明が始まった。この兵隊は規則で決まっている服装をしないで、歩哨に立ち、為に凍傷にかかった。ここを見ろと言われて見ると、足首から先が真っ白くなっている。
もうこれは切る以外にない。このままだとどんどん上まで腐っていって、足はおろか命迄危なくなる。 よいかよう見ておけ、これからすぐ病院に送って切るので、時間がないので急に集めたのだとのこと。 寒いところとは、良く分かっているのだが、現実に凍傷にやられた人間を始めて見たので,聞いてはいたが、さすがに驚きに身も心も引き締まった。
そして何よりも勤務中に凍傷にやられて、足を切られる兵隊の身の上が悲しかった。

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