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2006年6月21日 (水)

忘れ得ぬ人々(14)

田所健次君

私の大好きな男なのだが、思った程幸福な生涯を終えたと思えないので、偽名で載せる。
専門学校合格者の名前が私と一緒に神村と彼が新聞に載っていたので、あれっ、これ誰と不審に思った。
私の知らない男だった。後で聞くと徳山から転校して来たばかりの生徒だとの事だった。
一緒に京都まで受験しに行った親友は名前が無い。そちらが合格してくれればよかったのにと、がっかりすると同時に心配になった。
電話の無い時代だから声はかけられない。

が、入学してから、田所君が同じクラスにいることがわかり、直ぐ親しくなった。おとなしい、ひょろっと背の高いぼそぼそとはっきり物を言わない男だ。

1年ぐらいして、彼がどのクラブにも入らず退屈してるらしいことに気がついて、私の所属している卓球部に入らないかと誘うとすぐ応じてくれ、部長やキャプテンにお願いして入れてもらった。私同様素人だから一からの修行である。
すこし短気と見えて、ねばりがない。まなじりを決するのはよいが、簡単にミスする。
私も下手だったが彼はまだ下手だった。でもそれで却って仲がよくなった。
寮を出てから、1ヶ月後に私は彼の近所の下宿に引っ越した。
朝の賄いはお互いのすぐ近所だったから、一緒に食べ終わると同じ教室に、そして終わると同じクラブに向かうのだからいやでも親しくなる。口喧嘩程度はちょいちょいやったが、とうとう卒業するまで友情は続いた。
私が音楽好きなら彼もついてきた、映画の方は彼の方が熱心で三宅邦子のファンだったが、私は霧立のぼるの方がよかった。口争いはこの程度だった。
学業の方は彼の方が成績がよかった。ノートを借りるのはもっぱら私の方だった。

就職は私は外地志望だったから、満洲重工業系の試験を受け、9月にはその日のうちに合格し、先に父親に報告に帰った程だった。
ところが、田所君はどこを受けてもパスしない。帝人も宇部窒素も駄目だ。成績の良い男がどうしたんだろうと心配になって来た。
とうとう年を越してしまった。
ーーー(私の日記から引用する1月10日)田所が今日学校に来ない。病気でもしたかと思ったが、昨夜訪ねたときはぴんぴんしていたのだし、おかしいと思っていたが、念のため行ってみると居ない。結局晩になって彼が訪ねて来たから聞くと、就職面会に徳山に行ったとの事、再三のこととてくさっているのだろうが、又今度は目でやられた、もうどこへでも行くさと失敗した様な事を言って済ましている。なんだか可哀想である。(中略)
何しろ一昨年は石崎さん、昨年は羽村さんと二年続いて中学同窓会から徳山曹達へ入社しているのだし、今年は後続なしと思っていたがこれあるための田所の二度の不運の失敗と思えば、思えないこともない様な気がする。どうかそうであってくれれば良いと、良友田所の為に祈りたいのである。ーーー
ーーー(又日記から1月16日) 田所は我が予想に違わず徳山曹達に入った。これで同窓会も楽しく出来るというもの。慶賀すべきことだ。
 今日はほんとに楽しい日であった。ーーー
彼のうじうじしたはっきりしない性格が嫌われたのかもしれない。面接はやはり要領がいるが、かれは地を変える事が出来ない男だった。
でもよかった。彼の永年住み慣れたところの良く承知している会社に入ってよかった。

私が満洲から入営のため帰国して彼が東京支店に居ると聞き、上京して彼を渋谷に訪ねた。
しゃんしゃんやれよと励ましたが、うん頑張るといってすこし人が変わった感じがした。
戦後兵隊にも行かないで、会社に残り10年目に会ったときは課長になっていた。
一年先輩の羽村さんが彼は同期の一番だよ、すごいぞと自慢してくれた。
最新のコンピューター室を管理し、会社の成長を自慢げに説明してくれる彼に変身していた。

それからの彼がどうだったのか、私には理解出来ない。いくらたっても昇進しない。
他の先輩たちは部長重役となられたのに。
2度程彼の家を訪ねた事があるが、部下たちが訪問していたりして、なかなか人気が有るなと思ったりしたことがある。只うじうじした消極的な態度は変わらなかった。

その後も相変わらずの彼の性格から、同窓会には決して出てこない、私が世話人になって心配してるときも、どうしても会いたいから出て来いと電話したが矢張り駄目、1994年にも電話したが動かなかった。
とうとう諦めたのだが、何が彼をそうさせたか分からない。
いつの間にか同窓会名簿から外されていた。音も無くこの世から消え去った感じであった。
後で調べると平成7年3月1日天に昇っていた。悔いの残る別れであった。

Isimototamura

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