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2005年12月30日 (金)

デブの思い出

「デブ」が死んでから丁度27年になる。後ろの庭の片隅に埋められてひっそりと墓石がわりの小石の下で誰に弔われることもなく眠っている。

この家を新築して入居した時は、以前から2、3年飼っていた小さい牝猫が子供らと同格の我が家の一員として振る舞っていたのだが、ある日忽然と姿を消した。
生まれて間もないのを次女が道で拾って来て育てた猫で、家から殆ど離れることを知らなかったので、無断でおさらばすることは考えられないのだが、ともかくも居なくなった。

それから暫くしてまるまると太った大きな三毛の牡猫が、怖がりもせずにちょいちょい訪れるようになった。最初はどこかの飼い猫かと思っていたが、気が向けば2日でも3日でも、家の中をごろごろして子供らの相手をする。
大きいだけに大食漢で与えるものはなんでも食べる。2、3ヶ月もするとすっかり居着いてしまった。柄も動作も大きいので自然に「デブ」と呼ぶようになった。

しかし2軒隣の家でコタツの裾にちゃっかりとおさまっているのを、家内がたまたま見かけて、お宅で飼っているのかと尋ねたところ、飼っている訳ではないが遠慮せずに入ってくるので、ほっておいてるのだとのことでうちと同じ思いでいるらしい。猫には珍しい警戒心の無さである。

牡猫だから外歩きは激しく特に夜はほとんど家には居ない。時には3日も4日も帰って来ない。ほんとの自分の家に帰ったのだろうと思って諦めていると叉ひょっこり姿を現わす。こちらは別宅扱いの小馬鹿にされた様な気持ちで好きにはなれないのだが、娘二人が人形の様に可愛がるものだから、居心地が好いと見えて段々長くいるようになり、食事もあれこれねだる様になってしまった。

1年、2年と経つうちにすっかり自分の縄張りにしてしまって、柄が大きいだけに他の猫は一喝されるとこそこそと尻尾を巻いて立ち去る始末。
所がそのうちに野良の本性を現わし出したか、時々どこかで拾い食いしたものを座敷のどこかしこにお構いなく戻したりすることがあり始めた。

ゲーゲーと時ならぬ時やられると、家内は大慌てで立ち回り、追い出しにかかるのだが、間に合わずやられてしまい、後片付けにぶつぶつ云って憤まんをこちらにまでぶっつける。何回もやられるとこれはたまらぬと、相談の結果子供らの留守の間に捨てることになり、12、3キロ離れた餌の拾えそうな商店街の近くに車で捨てに出かけた。

子供達には暫くはぐずぐずこぼされたが、やれやれと一息ついていたところ、3ヶ月経ったある日、みゃーんみゃんといつ帰った来たか子供らにじゃれついているではないか。犬が旧主の所へ帰って来るとは聞いたことがあるが、野良猫が多少の恩義があったにしろ帰ってくるなどということを聞いたことがなかったのですっかり驚いた。

家内も私も多少後ろめたさもあったので、しょうがないなと諦めてそのままにしておくことにした。
ある時交通事故にあって、後ろ足を1本折られて帰って来て、暫くは片足上げて歩いていたが、半年もすると元通りになって駆け回るようになった。流石に野良だなと感心したものだ。

こうして戻って来た日から丸2年目のある日の夕方、2、3日居ないなと思っていたところ、ガラス戸の外で弱々しい鳴き声が聞こえるので戸を開けると、よたよたしながら、今にも倒れそうになって入って来て、真直ぐに台所に行くので、「デブどうした」と声をかけるとかすかに鳴きながら、どうやら水が欲しいらしいので、皿に水を汲んで与えると一口飲むと、勝手口から床下に入り込んでしまった。

その日はみんなそれぞれ所用で出かけなければならなかったので、そのままカギを閉めて出かけたのだが、夕方帰宅してみると玄関のたたきの上でながながと横倒しに倒れているデブを見ることになった。既に堅くなっていた。何でも食べる猫なので毒入りのものでも食ったのかもしれないと、後で話すことだった。

何の因果か、風来坊の猫が死場所をうちに決めてくれたわけなのだが、生憎私達は不信心で仏も神も持っていない。仕方が無いので後ろの庭の片隅に埋めるということになった訳である。

近くに嫁いでいる長女が家内からの話を聞いて、花を持って別れに来たのが「デブ」の野辺の送りとなった。

その後、娘たちが皆他家へかたづき、あまり好きでない猫はおろか、生あるものは懲りて一切近づけないで長い間過ごして来たが、図らずもこんな老境に身を置く事になってみるとやはり日々寂しくて、たまに顔を出す野良猫かよその飼い猫かしらないが、手を差し伸べるこの頃である。

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